【d!】ちゃうんですって!!!! (ページ3)

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四月も終わりに近付いてきたある日の午後零時半。
捏田球稀(コネタキュウマ)、宇都宮大(ウツノミヤダイ)、天久保(アマクボ)陽呂、結縁(ユイエン)希、卯月Aの五人は、部活動に参加するため南館四階にあるゲーム部の部室へと向かっていた。因みに紗緒は暫く野球部の活動に専念するようで今回は不在である。

ここ数日で仲を深めたのか、陽呂や今まで借りてきた猫の如く大人しかった希さえも二人との会話に息苦しさを感じていないようだった。自然と混ざる陽呂と希の楽しげな表情を見て、Aはほっと息をつく。
何の危機感も持たずに会話が出来る事の有難みを彼女は、彼らは身をもって知っている。
けれど平坦な日常も長くは続かないだろう。ふと邪悪な顔が過ぎり、Aは薄く笑った。

「二人って普段どんなゲームするん？」

「オレは基本FPSばっかやな」

「俺…は最近やったら鉄拳やなぁ」

「ん？なんて？てってけてー？」

「んふ、ちゃうよ？鉄拳」

「Teckel(テッケル)？」

「惜しい！鉄拳」

「撃剣？」

「鉄拳！」

「石鹸？」

「鉄拳 ! ! ! 態とやろお前ェ！！！！！」

劈くような声は窓ガラスが悲鳴を上げる程のものだった。然しそれだけでは鼓膜破壊人の元で鍛えられた勇士の鼓膜はビクともしない。脳みそ筋肉ならぬ鼓膜筋肉。やはり筋肉は全てを解決する…！

「ふ、んはははハハﾞ！！ふふふっ…おっけー、分かった完全に理解した。鉄拳な？鉄拳」

彼らの言う"鉄拳"とは、Aの言う一度目*の世界にて口ボ口がどハマりしていた3Dタイプ対戦型格闘ゲームである。
この世界でも鉄拳シリーズは其の儘の形で存在しているが、悲しきかな一度目*とは違い鉄拳2が発売されてから二十年程経った今でも新作(鉄拳3)は発表されていない。Aは想定よりも不人気だったことが原因だろうと予測しているが、製作陣が解体されてしまった今、真相は闇の中である。

何の因果か知らないが、陽呂は中学生の時に親戚から件の初代版のソフトと対応するゲーム機を譲り受けていた。
"格闘ゲーム"という未知なる領域。パッケージに描かれた屈強そうなキャラクター。親戚からの熱烈なアプローチ(押し付け願望)。彼の趣味が前世も今世も筋トレであることetc.陽呂がこのゲームに興味関心を引かれるのも必然だと言えるだろう。